溶ける氷と開く地政学
北極圏の気温上昇は世界平均の約4倍のスピードで進んでいる。かつては「永遠の氷」に閉ざされていた北極海が、夏季に航行可能な期間が延びており、2030年代には北極海が夏季に完全に無氷になる可能性も指摘されている。
この「溶ける氷」は、地政学的に見ると「開く可能性」だ。推定埋蔵量として世界未発見石油の13%、天然ガスの30%が北極圏に眠るとされる。また、新たな航路(北極海航路)が欧州〜アジア間を大幅に短縮する。
北極海航路
北極海航路(NSR:Northern Sea Route)はロシア北岸沿いを通り、日本〜欧州間の距離をスエズ運河経由より約40%短縮する。
ロシアはNSRを自国の「内水」と主張し、通航料・許可制度を設けている。これはUNCLOS(国連海洋法条約)上の法的解釈と対立する。温暖化が進むほどNSRの商業的重要性は高まり、ロシアとの摩擦が増す可能性がある。
グリーンランド問題
デンマークの自治領グリーンランドは、北極圏最大の島であり、世界最大級のレアアース鉱床を持つとされる。戦略的位置(北米とヨーロッパの中間)からも軍事的・資源的な重要性が高い。
2019年にトランプ大統領がグリーンランドの購入を検討すると発言し、デンマークとの外交的摩擦を生んだ。2025年には再び購入・領有への言及が行われ、米国のグリーンランドへの関心の高さを示した。
グリーンランドの資源開発への中国企業の参入を、米国・デンマークともに強く警戒している。北極の地政学は、気候変動という「ゆっくりした危機」が生み出す新たな競争の場だ。