電気自動車、F-35戦闘機、そしてAI革命。現代文明のすべてを人質に取る「レアアース」の精製プロセスにおける、中国の圧倒的支配力と西側の苦悩。
「レアアース」は、希少ではない
名前から受ける印象とは裏腹に、レアアース(希土類元素)は地殻中に比較的ありふれた存在だ。17種類の元素群の埋蔵量は、ニッケルや銅と大差ない水準にある。
では「レア(希少)」という形容詞はどこから来たのか。答えは「分布の問題」にある。レアアースは高濃度で一箇所に集中するのではなく、地殻中に薄く広く分散している。さらに、放射性物質を含む鉱石から分離・精製するプロセスは、環境汚染を大量に生み出す。その処理コストと廃棄物処理の問題から、西側の先進国が長年「誰かにやらせよう」と避けてきた産業分野が、まさにレアアースの精製だった。
その「誰か」として引き受けた国が中国だ。
中国が握る「採掘」ではなく「精製」
よくある誤解として、「中国がレアアースを採掘量で独占している」というものがある。実際には、オーストラリア、米国、ミャンマー、ロシアなどにも重要な産地がある。中国の採掘シェアは世界の約60%だが、これは「独占」と呼ぶには若干大げさだ。
真の問題は「精製・加工」にある。採掘されたレアアース鉱石を、産業用の高純度材料に分離する工程では、中国のシェアが85〜90%に達する。オーストラリアや米国で掘り出されたレアアースですら、精製のためにいったん中国の工場を経由しなければ使えない——というのが現実だ。
この非対称な支配力を、中国はどうやって作り上げたのか。国家戦略として精製産業に補助金を投じ、価格破壊によって外国の競合他社を市場から駆逐した。環境汚染のコストを「外部化」することで、他国なら採算が合わない価格で供給し続けた。その結果、西側先進国は競争力を失い、精製能力を失い、ノウハウも消えた。
「武器化」の瞬間——2010年の衝撃
2010年、尖閣諸島沖で中国漁船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突し、日本が船長を逮捕した。その直後、中国は日本向けのレアアース輸出を事実上停止した。
レアアースが「資源の武器」として使われた最初の事例だ。日本の製造業は依存の深刻さを突きつけられた。モーターの心臓部にレアアースが使われているにもかかわらず、代替の確保には数年単位の時間がかかる。世界のレアアース価格は急騰した。
この「ショック」が日本の経済安全保障政策の原点となった。オーストラリアのLynas社への出資、レアアース使用量を減らす技術開発(レアアースフリー磁石)、深海底のマンガン団塊調査。そして近年の「経済安全保障法」制定と重要鉱物の国家備蓄——いずれも2010年の衝撃から続く、長い対応の歴史だ。
「脱・中国」は本当に可能か
現在、米国のCHIPS法・IRA(インフレ削減法)、欧州の重要原材料法など、西側陣営は重要鉱物のサプライチェーン多様化に多額の補助金を投じている。「フレンドショアリング」(同盟国・同志国内での調達)という概念が政策の中心になってきた。
しかし率直に言えば、「完全な脱・中国」は今後10年では達成不可能に近い。
なぜか。新たな精製拠点を立ち上げるには、環境アセスメントと地域住民の同意を得るだけで数年かかる。施設の建設にさらに数年。そして中国は、新しい競合が育ちそうになると、精製価格を大幅に引き下げてダンピングで市場から撤退させようとする。市場経済の論理だけに任せていれば、西側の対抗拠点は採算が合わずに何度でも潰される。
鄧小平が「レアアースは中東の石油に匹敵する我々の戦略資源だ」と語ったのは1992年だ。その言葉の意味が現実となるまで30年かかった。「脱・中国」の完成まで、それ以上かかる可能性を覚悟しなければならない。